私のおすすめの1冊 in cinemaValleyの森

私のおすすめの1冊 in cinemaValleyの森

「映画館(こや)がはねて」
 山田洋次


 素敵な長編小説は、いくつもの魅力的な短編が組み合わさってできていると思っている。ならば、その短編は何から出来ているのか?そう考えた時に、自分の中から出てきた答えが「作者自身の日常」だった。いくつもの日常の組み合わせが、1つの小さな物語を生み、短編小説となる。そう考えている。作者の日常は、エッセイで読むことができる。
 今までたくさんの映画を見てきて、最後にたどり着いた映画が「男はつらいよシリーズ」、寅さんの映画だった。見る作品、見る作品が面白い。「なんで寅さんは面白いの?、なんでみんな寅さんが好きなの?」大きな疑問が生じた。山田洋次監督はインタビューでこう言っていた。「日常の面白い出来事を発酵させて映画で使うんだ。」その時、なるほどなと思った。同時に、やっぱりなと思った。寅さんの面白さは、監督の日常にあるんだ、そう確信した時に出会ったのが、この本だ。戦時中、家族と中国で暮らしていた幼年時代ソ連軍に怯えながら、貧しい生活をしていた苦しい時期。それでも、エッセイの中の山田少年の日常は、面白可笑しく楽しい。そういう感性が日常を作り、それが寅さんの面白さの源になっているのだろう。
 森で読みたい本、やはりエッセイだ。